Dies irae~Acta est Fabula~ 通常版

Dies irae~Acta est Fabula~ 通常版




ルート別感想。ネタバレ全開。あ、先輩のトゥルーEDも見ました。エピローグの内容よりもむしろ、フラグを立ててると発生する追加イベントがもう・・・なんというか、やっぱりお前がヒロインでいいよもう。








香純ルート


香純というキャラのゲーム内での扱いに比例するかの如く微妙。終わり方もバッドエンドと言っても差し支えない。ただこの香純ルートの場合、07版の弊害が大きく、07版の時点で及第点には達していたマリィルートと違い、香純ルートは内容も評価もズタボロ。シナリオの展開が悪いのか?と言われれば、確かにラインハルトも三騎士も出てこないぶん派手さに欠けはするものの、展開そのものは割りと纏まっていた。では何が悪かったといえば、それはテキスト。特にカイン戦が酷かった。居残り組最強というカインの評価そのものが揺らぐほどに。詳細は省きますが、地の文でガィン!と連呼したり、やけに分厚くて重いという表現を重ねたり、一節の中で「燃え上がらせ〜」という言葉を二回挟んだりと、色々あったのです・・・。


そして待ちに待った新装版。マリィルートは大幅な手直しを受け、後半の展開が丸ごと別物に変わり、これこそが俺たちの求めた怒りの日だ!とユーザーが狂喜する一方、香純ルートはというと、リザが犠牲にしてきた子供達に絡んでイザークとヨハンの存在が強調されるイベント等が追加されたりするものの、展開はほぼ変わらず、テキストの手直しも最低限(地の文に付いていた間抜けな「!」マークが取り除かれたり、明らかにおかしい文法を修正したり)。07版より確実に良くなってはいるものの、マリィルートの変貌ぶりが際立つ所為で、むしろ差が開いてしまったとすらいえる結果に・・・。


ただ良い点がまるでないのかと言われればそうでもなく、新装版で最も手直しされたであろう十三章における、カインを失った螢の病みっぷりは、香純ルートならでは。他ルートでもこのネガっぷりは健在なものの、味方になったりネガったと思ったら退場したりするのに比べ、敵のまま存分にネガるのは香純ルートだけ!というか、螢に関しては07版とそれ以降でほぼ別人・・・。まあ香純ルートで香純でなく螢が評価上げてどうすんだって指摘は無視しますわ。


あとはやっぱり神父。黒円卓で最も満遍なく美味しい場面を割り振られてるトリファがこのルートではラスボス。本懐を遂げたという点では先輩ルートに劣りはするものの、イカレっぷりは全ルート中随一。特に蓮の顔面を床に叩き付けながらの独白シーン、その中でも




「殺して生き返らせ、殺して生き返らせ、殺して生き返らせて殺す殺す奪い取り戻して繰り返す!
 創って壊して創って壊して、延々と同じことを創ったり壊したり、あははっ
 しかし途中で飽きたらどうするんですかねえ。まだ最初の一回目なのに大変ですよ、まったくこれは――はははははは」




この下り。この下りはトリファの台詞の中で一番好きかも。「殺す殺す奪い取り戻して繰り返す」のリズムが秀逸。


EDも、あれを終わりと捉えるからいかんのであって、マリィ・先輩ルートで永劫回帰を脱却するための下地として考えれば・・・まあ下地にされるヒロインってどうなのと思わんでもないけど、香純は一応、全ルートで一貫して蓮に大切にされてるしね・・・。螢なんて本人のルートと先輩ルートの落差がアレだし。




マリィルート


ラインハルトと三騎士が復活し、螢が味方になり、司狼が聖遺物を獲得して蓮と肩を並べて戦う王道ルート。07版から大幅な手直しを受けて、リザとトリファにも見せ場がある素敵展開。特にトリファは、螢相手に「自分も救われようなどと、戯けたことを願ってはいけない」と、肉体・精神ともに圧倒し、先輩にロンギヌスを放ち目的を遂げようとするも、マキナとザミエルが現れて阻止される。が、それでも足掻く。


敵同士のぶつかり合いは、如何に苦戦しようと最終的に勝利する主人公(香純ルートは神父には勝ったが首領二人には戦わずして負けたようなものだし、螢ルートでは勝負には負けたが生き延びた状態なので、勝利するというより生き残るといったほうが正しいかも)に比べ、どちらが勝とうと展開的に美味しいので勝敗が読めず実に面白い。格下が勝てば下克上、格上が勝てば相手を踏み台にすることによって強さをアピールできるわけで、このケースだと後者。踏み台にされるトリファは香純ルートだとラスボスなワケで、そういう意味でも香純ルートは正しく踏み台であると言えるような気が。香純、お前は這え、俺(マリィ)は翔ぶ(直後に香純が死んで自己嫌悪)。


ちなみにこの「如何に苦戦しようと最終的に勝利する主人公」の方式は、勝ち負けが生き死にに直結するバトルものに当て嵌まるものであって、ジャンルが違うとそうでもないです。例えば試合形式がメインの格闘技系漫画やスポーツ物、麻雀・将棋等の卓上知略系。渡久地東亜の台詞を借りれば「リーグ戦はトーナメントとは違う。負けることが許されている」といったところか。


また生死直結型のバトルもので主人公が出張っても面白さを失わずに済ませるには三つのケースが考えられます。一つは、主人公が相手を倒すことで読者や物語に対する溜飲を下げるパターン。相手が意図的にそう演出された極悪人であったり、ラスボスとの最終決戦がコレ。二つ目はジョジョ等の知略系バトル漫画に代表されるような、勝つか負けるかより「どう勝つのか」を楽しむ推理パターン。三つ目はそもそもの主人公が作中最強格の存在であり、敵相手に無双することを水戸黄門的なお約束の出来事として捉えるパターン。


ではディエス・イレはこのうちのどれを採用しているかと言えば、主人公の能力が首切り・加速という知略の張りようもクソもない類型なのでパターン2は除外。パターン3はどうかというと、確かに成長しきれば作中最強格ではあるものの、途中まではむしろ敵連中と比べて劣ってすらいるのでこれも除外。となるとパターン1しかないわけだが、パターン1はその性質上、決めるべき場面以外で主人公の影が薄くなりがちで、事実マリィルートでは共通ルートのシュピーネさんを除くと、ラスボスのラインハルトと宿敵のマキナしか倒していないのだ。主人公なのに。


しかしかといって同士討ちを頻発させれば展開が先輩ルートと被ってしまう、ベアトリスは螢ルートまでお預け、となると螢と司狼に任せるしかないわけで、中でも司狼はルサルカ、ヴィルヘルム、シュライバーと、参戦が遅いくせに短期間で三人を食う活躍ぶり(ヴィルヘルムとルサルカにトドメを刺したのはシュライバーだけど、簡単に刺される原因を作ったのは間違いなく司狼)。そしてその内訳は超人補正による復活(パターン3)であったり、拷問器具一揃えという特徴を生かした戦法(パターン2)であったり、主人公が本来受けるべき補正であったりするワケです。即ち蓮がやれないことを実行するという存在意義がメタ的な意味でも機能しているわけですね。07版・クンフトの時点では「補正が異常」「あいつが出てくると敵が弱くなる」と(人格面は別として)あまり評判のよくなかった司狼というキャラそのものが、本来主人公が受けるべき批難の身代わりとして機能するという点で、全ては正田とクラフト監督の掌の上だったと思わんでもなかったり。


なんかマリィルートの感想だか司狼というキャラクターに関してだかわからなくなってきたので話を元に戻しますと、マリィルートの肝はやっぱり三騎士。形成したのはいいが自爆覚悟で聖遺物破壊されて「馬鹿なァァァ!」と沈んでいった07版と違い、新装版の彼らは強力無比。相打ち覚悟で一矢報いようとし、その目論見通りにいっても魂の差でかすり傷程度。ぶっちゃけ強くしすぎなくらい。まあ正確には強化したというより弱点を失くした、と取るべきかも。シュライバーはなんだかんだでバイクごと撃ちぬかれる結末は(マリィルートに限って)変わらないし、ザミエルは07版のアレが余程トラウマにでもなったのか、全編通してドーラの形成自体しやしないし。・・・でもドーラ砲の効果(拡大爆心)自体は使ってるから、そもそもドーラを形成するという設定自体ボツになったのかも。マキナに関してはマリィルートでの決着の仕方が一番良いと思う。つーかマキナさんはそのキャラ設定上、出てくるルートでは毎回蓮と戦わせられるうえに、能力が一撃必殺なので三騎士なの中だと一番扱いがアレですね。不死能力とか必中技と同じで、破られることが事前に確定しているかのような能力(ただし敵として出た場合)。


ヒロイン連中も途中から寝っぱなしの香純以外は全員確固たる立ち位置と見せ場を確保しており、なまじ螢と先輩がメインヒロインとして紹介されていなければ、香純ルートと併せてディエス・イレという作品はこれで完結していてもおかしくない、意図的に他ルートに回された設定面の謎さえ除けばそう断言して構わぬ完成度。EDも全ルート中一番後味が良いかと。バッドエンド同然の香純ルートと、戦いはこれからだの螢ルートは兎も角として、先輩ルートの「メルクリウスのいない世界でやり直し」に関しては、いまいち大団円と認めたくないんだよなあ。




螢ルート


プレイ日記で大体言いたいこた言ったんであらためることもあんまない。香純ルートが日常、マリィルートが非日常へ突き抜けた結果とするなら、螢ルートは丁度その中間で、流出に至らず創造のまま戦い続ける蓮や、メルクリウスのいう既知と未知の中間、何より螢のキャラクターが非日常に属する日常キャラなのもそのへんを強調しているかと。


プラス螢の場合、最初から好感度MAX状態の他三人と違って、まがりなりにも最悪の出会いからの印象変化という、恋愛モノのテンプレート展開が為されているあたりが特徴といえば特徴か。正直ツンデレという属性自体、組み込めば最低限恋愛劇の形が整ってしまう魔法の薬みたいなもんで、最初から好意を抱いてるキャラよりもツンデレを嗜好すること自体、「そのほうが無償の好意より安心できる」という、打算と媚びにまみれた概念だと思ってますし、螢ルートが恋愛劇として及第点に達しているかと言われればノーなわけですが、元々恋愛ゲーではないのでこれはこれでアリ。ヒロイン中単純な戦闘力ではNo1の反面(触れれば首が飛ぶマリィも強いけど)、精神面では支えてくれる人間がいないと最弱というギャップは、このゲームにおける螢固有の魅力でしょう。


あと個人的に「苗字だと堅苦しいから名前でいいよ」的なスタイルが大嫌いなんで、最後まで苗字で呼び合う二人がなかなか新鮮で好ましかった。濡れ場はおろか、二十年経っても苗字呼びなのは筋金入り。




玲愛ルート


と見せかけて、団員それぞれが悲願を叶えたり、渇望を自覚したり、業を乗り越えたりする黒円卓ルート。マリィルートのラインハルトは「全力を出す」という目的は叶ったものの、既知感を作り上げた神を滅ぼすというもう一つの目的は叶えられず昇天したのが、当初の目的通り既知感の元=メルクリウスに全力で挑み、蓮に対する敗因であったイザークの扱いすらも克服し、あくまで従え、他人の能力を己で発動させていたのが、団員達が自ら進んで力を発揮する様は、ひとえに燃える。・・・まあ能力発現に関しては、ラインハルトが愛を知ったことが半分、相手がメルクリウスだったことが半分って気がするけど。ニートどんだけ恨まれてんだよっつー。


マリィルートの対というか、裏ルートとも言うべきシナリオなので、設定面で先送りされていた謎もこのルートで全解決。そういう意味でも他三ルートをやっているのが前提。ドラマCDすら前提に巻き込むのはどうかと思うものの、特殊な発売体型を考えると止むなしか。そもそもドラマCDという媒体自体が本編をプレイしてないと楽しめないのはさておき、不遇な扱いだったリザやルサルカ、業そのものが不遇なヴィルヘルムとシュライバーのバトル等、全編仲間割れに次ぐ仲間割れなわけで、楽しいは楽しいけど卑怯な楽しさですよね、コレ。「子供が遊びで話す『スタローンとジャン・クロード・バンダムはどっちが強い?』そのレベルでいいよ」を現実でやっちゃったとでも言うか、魔界転生fateと同じで、題材勝ちとでも言うか。そりゃ燃えるわ!楽しいわ!っていう。ただその題材(敵同士も含めての最強決定戦)がそれだけで楽しめるレベルにまで至ってるのは、これもやはりそれまでのキャラ立てありきなんで、単純にライターである正田の力量か。


EDは「メルクリウスのいない世界でやり直し」という、大団円かも知れないけど、以前の世界がないがしろにされてるみたいで素直に喜べない、でも以前の世界はメルクリウスの介入で各々人生を歪まされたわけで、そう考えるとジレンマが。EDに出てきた連中は兎も角、シュライバーやヴィルヘルム、ルサルカ等の、メルクリウス(とラインハルト)による介入で生き延びた連中はどうなってるんだろう。ルサルカなんかは出来ればロータスと今度こそイチャついて欲しいけど、普通に考えたら獄死か処刑、そうならなくても普通に生きてたら時代があわず、獄中で地力で影を従えて魔女になるしか道はないけど、そうはならなかったんだろうなあ。


エピローグに出てきたラインハルトの「私は満足した」っていう台詞は、メルクリウスに負けず劣らずの傍迷惑さを感じて笑えた。いい意味で。






終えてみれば私的エロゲランキングを更新してくれた素晴らしい厨二ゲー。07版の騒動から完全版が出るまでの二年間も、むしろ二年間も楽しめたと肯定できるほどに。人はそれを信者という。自分的には07版もマリィルートだけ抜き出してみれば充分楽しめたんで、別にメーカーに対しての恨み言とかありゃしないどころか、それを越える出来のルートを三本追加してくれたことに関して感謝の念しかないですわ。終わりよければ全てよしっすよ。



好きなキャラを抜き出すと、男はやっぱりなんだかんだで07版から、いや体験版からプレイヤーを牽引し続けてくれたヴィルヘルム。女は・・・螢かザミエルか難しいところだけど、見た目クール、内面ダメっ娘というギャップが決め手で螢かなあ。瞬間的な爆発力だとルサルカやベアトリスも捨てがたい。ベストバウトはラインハルトvsメルクリウスか、ヴィルヘルムvsシュライバー、ベアトリスvsザミエル、螢vsザミエル、六章の蓮・司狼vs螢・ヴィルヘルムのどれか。正直キャラ以上に決めるのが難しい。あえて言うならザミエル主体の戦闘シーンに外れなし、かも。毎回蓮と戦うマキナや、先輩ルートまで本気お預けのシュライバーに比べて、毎回相手が違って、しかもその相手が全員因縁ありという優遇ぷり。このへんのキャラ雑感は後日個別に書いていこうかと思います、まる。